キャシー・クラレ
「これがわたし」
Cathy Claret “Así soy yo”
「今回のアルバムは、貧しさにあえぐロマの人々が暮らす地域、バルセロナのラ・ミナ地区、で制作された。そこはキャシー・クラレと気心知れた人々が暮らし、本物のフラメンコのルーツに根ざす、詩情が息づく場所だ」──ノエリア・コロテス(ロマの作家)
1980年代後半から90年代、「渋谷系」のブームの中、カヒミ・カリィなど、多くのアーティストからリスペクトされたキャシー・クラレ。本作は2018年2月リリースのアルバム以来となる、待望のオリジナル・アルバムです。近年、スペイン・バルセロナに住み、地元メディアからは、フラメンコとポップ・ミュージックを融合させた「ポップ・フラメンコ」と呼ばれるサウンドのパイオニアである、と評されています。
キャシーは、天涯孤独だった10代の頃、ロマの大家族の10人目の娘として迎えられました。このことはキャシーの人生全般に大きな影響を与えると共に、常に音楽が溢れるロマとの生活から、ギターを始め、さまざまは楽器の演奏を覚え、更には、作曲についても学びます。
今作についてキャシーは、「わたしの声は、フランス寄りとも言える声で、フランソワーズ・アルディやジェーン・バーキンの流れね。でも、わたしの人生はロマ寄りなの。今作で表現されているのは、音楽的にはかけ離れた二つの世界の融合なの」と述べています。さらに「今回のアルバムの制作中は、わたしの中のロマ性が躍動していたわ。夢見続けていた音作り、ポップスとロマ音楽(フラメンコを中心にする)のフュージョンが実現した本作は、これまでになくわたし自身を反映しているの」「これまでのアルバムに関して、ロマ出身ではないミュージシャンとの共同作業だったので、わたしが求めるロマ性にはたどり着けなかった」「今作で、10代の頃からわたしを励まし、わたしを肯定してくれた、ロマとの絆という、わたしの人生の半分を占める部分を、余すことなく表現できたわ」と述べています。
本作は、まさにキャシー・クラレという音楽家にとって、一つの到達点と言える作品であり、「ポップ・フラメンコ」という、唯一無二のサウンド・ワールドが、見事に大輪を咲かせた作品でもあります。
本作は、作曲、アレンジ、演奏、録音、ミックスに至るまで、全て100%ロマの人々との作業で制作されました。インターナショナルにリリースされる作品として、このことは極めて稀なことです。
レコーディングは、スペインで最も貧困な地域のひとつ、バルセロナのラ・ミナ地区にある、通称タテ型バラックと呼ばれる、団地が林立するロマのゲットーで、そこに暮らす、プロデューサー、チェのホーム・スタジオを中心にして録音されました。
チェ:本名はチェ・ホアン・エレディア。最初はフラメンコ・ピアニストとしてスタートする。父親はフラメンコ・ギタリスト。独学でプロデュース・ワーク、アレンジを学び、現在、ロマのトラップ・ミュージック、ラップ、フラメンコ・レゲトンなどの作品のプロデュースを手掛けている。「チェと出会えたから、またアルバムを作る気になったと行っても過言ではないわ」(キャシー)
ユヘニオ・サンティアゴ:バルセロナの気鋭のフラメンコ・ギタリスト。今作のアコースティックな楽曲は、彼がプロデュースを手掛けた。
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ボーナストラック
パリで生まれ、その後南フランスのニームに移り住む。
幼少期から思春期まで家族と一緒にバルセロナ、セビージャ、マドリッドなど3大陸29都市を転々とし、転校は20回以上に及ぶボヘミアンのような暮らしをしていた。その後母が若くして亡くなり、父と放浪を繰り返す中、16歳の時にフランスとスペインを行き来するロマの大家族に「10人目の娘」として迎え入れられ、18歳の時、大家族と共にスペインに拠点を移した。
キャシーが音楽にどっぷり浸かる生活をスタートさせたのは、ロマの大家族に出会ってからである。ロマが奏でる音楽に興味を持ち、16歳でフルート、続いてエレキベースと独学で次々と楽器をマスターして行く。その後オリジナル曲のデモテープをヴァージン・フランスに送り、1987年に同レーベルよりデビューする。
彼女の音楽を個性付けているのは第一にそのウィスパー・ボイスであり、カヒミ・カリィが最も影響を受けたアーティストと公言している。
日本ではベルギーのクレプスキュール・レコードからリリースされた1990年のアルバム「あなたに」と91年のアルバム「風に抱かれて」で広く知られるようになり、91年には初来日をした。
1990年代前半にブームとなった“渋谷系”の音楽シーンでもそのウィスパー・ヴォイスは注目を集めた。なお、1989年には早瀬優香子がキャシーの楽曲「ポルケ・ポルケ」をカヴァーしている。
世界的には、フラメンコ界の大スターであるライムンド・アマドールとB.B.Kingがキャシーのオリジナル曲「BOLLERÉ」をカヴァーして大ヒットを記録。
2000年、03年、05年、06年、07年にもアルバムをリリース。
15年リリースのアルバム(日本盤は16年にリリース。タイトルは「世界で一人ぼっち」)は、日本を含む世界で高い評価を受ける。
2017年にはアルバム「プリマヴェーラ」をリリースする。
現在も世界中からリスペクトされる、ウィスパー・ヴォイスの歌姫として精力的に活動中。