パリ発のフレンチ・カフェ・ミュージック、パリ・ミュゼット。
パリのエスプリ溢れるアコーディオンの調べが魅力的です。
■本作について
「昼下がりの情事」「パリの屋根の下」など多くのフランス映画から流れてくるアコーディオンの調べ、パリの下町で長く愛されてきた音楽、それがパリ・ミュゼットです。“ミュゼット”とは音楽の女神“ミューズ”から来ており、まさにパリの音楽、そしてシャンソンと並んでフランスを代表する音楽です。
パリ・ミュゼットの成立は1810年頃です。19世紀に入ると産業革命の影響で、パリにはフランス国内はもとより、ヨーロッパ各地からの移民が流れ込んで来ました。そんな中、イタリア移民たちが、アコーディオンをパリに持ち込みました。ダンスホールも移民の増加と共に増えて行き、セーヌ河右岸バスチーユ近くの「ラップ通り」がそのメッカとなり、20世紀初頭にはアコーディオンをメインにしたミュゼット音楽が大流行しました。
パリ・ミュゼットはワルツを中心にポルカや、最近ではサンバ、ボサ・ノヴァなど、多彩なリズムが取り入れられており、またジャズ、ブルース、タンゴなどさまざまな音楽要素が反映しています。
まさに移民の国フランスが生んだパリ発のワールド・ミュージックであり、長く多くの人に愛されて来たフランスの大衆音楽が、パリ・ミュゼットです。ちなみに、天才ギター・プレーヤーと呼ばれたジャンゴ・ラインハルトも多くのミュゼットナンバーを演奏しています。(本作の9曲目はジャンゴの作曲です。)また、セルジュ・ゲンズブールは本作の4曲目で、その名もズバリ「アコーディオン」と言うナンバーを作曲しています。
■収録曲
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- 1. アニー・ゼット
- 演奏者:Francois Parisi(acc), Didi Duprat(g), Yves Torchinsky (cb), Jacques Mahieux(dm)
アコーディオンのフランソワ・パリジは、1962年生まれのシシリア人を祖先に持つ奏者。『アニー・ゼット』とは「アニーちゃん」を意味し、アニーという女性の愛称であり、これは彼の代表的な作品である。
- 2. 甘い喜び
- 演奏者:Armand Lassagne(acc), Didi Duprat (g), F.Legendre (cb), Alain Bouchaux(dr)
アコーディオンのアルマン・ラサーニュは、1934年生まれ。「正統ミュゼットが弾ける最後の男」と言われている。レイモン・ルフェーヴル・オーケストラの専属アコーディオニストとしても活躍。
- 3. チャイニーズ・ワルツ
- 演奏者:Marc Perrone (acc.diato), Didi Duprat (g)
マルク・プロヌは1951年生まれ。ダイアトニック・アコーディオンの名手である。ここでは、ジョセフ・コロンボ作曲の西洋人が想像する「中国風」の長調ワルツを弾く。伴奏には、ミュゼット・ギターの名手ディディ・デュプラが加わる。
- 4. アコーディオン
- 演奏者:Jacques Mahieux(vo, dm), Didier Roussin(e.guit), Yves Torchinsky(cb)
ミュゼット曲には、器楽だけのものと、この曲のように歌入りのもの、即ち<ヴァルス・ミュゼット・シャンテ>がある。アコーディオンをたたえる歌。
- 5. パリ・ミュゼット
- 演奏者:Jo Privat(acc), Didier Roussin(g-solo), Didi Duprat(g), Yves Rousseau(cb), Alain Bouchaux(dm)
アコーディオンのジョー・プリヴァ(1919〜1996)はミュゼットの生き字引とされ、ミュゼット界の清水の次郎長よろしく、親分的存在であった。
- 6. ナポリのそよ風
- 演奏者:Armand Lassagne(acc), Jacques Quezin(vn), Didi Duprat(g), J.P.Viret(cb), Alain Bouchaux(dm)
この曲の作曲者ヴェテーセは、もともとイタリアのナポリ出身とも言われており、昔住んでいたその町を想い作曲した。ここではアコーディオンのアルマン・ラサーニュの歯切れ良い演奏に、ジャック・ケザンの奥深いバイオリンのカウンターメロディが対話する。
- 7. ラ・ラブイーヌ
- 演奏者:Francois Parisi(acc), Didier Roussin(g solo), Didi Duprat(g), J.p.Viret(cb)
この曲の作曲者、ルイ・フェラーリは世界的ヒット『ドミノ』を生み出している。『ラ・ラブイーヌ』とは、ロマ(ジプシー)のことを指し、彼らのボヘミアン的人生に憧れを示す作品である。ここでは、フランソワ・パリジが演奏している。
- 8. マルゴーのワルツ
- 演奏者:Les Quatuor d Accordeons de Paris(Richard Galliano, Joe Rossi, Valerie Guerouet, Frederic Guerouet)
世界指折りのジャズ・アコーディオン奏者リシャール・ガリアーノ(1950年生まれ)が自分の姪マルゴーに捧げたワルツ。
- 9. たそがれのメロディ
- 演奏者:Didi Duprat(g solo)+Didier Roussin (g)
ミュゼット音楽に於けるアコーディオン最大の友、ギターをフィーチュアしている。ディディ・デュプラ(1926〜1996)はミュゼット・ギターの名手であり、多くのアコーディオニストたちの伴奏を彼のマカフェリ・ギターで受け持ってきた縁の下の力持ち的存在であった。
- 10. ダンスホールが終わった後に
- 演奏者:Cathy Renoir(vo), Jacques Bolognesi(acc, piano), Didi Duprat(g), Yves Torchinsky(cb)
この曲は、シャンソン歌手ダミアのレパートリーの一つだが、ある女性が、バル・ミュゼットで知り合った男性に寄せる思いを歌っている。
- 11. 指5本分の水
- 演奏者:Francois Parisi(acc), Didi Duprat(g), Yves Torchinsky (cb), Jacques Mahieux (dm)
フランソワ・パリジ作曲の軽快なメジャー・ワルツ。アコーディオンのボタンの上で水が流れるように鮮やかに動く指を指しているのかもしれない。
- 12. ナニー
- 演奏者:Jean Corti(acc), Didi Duprat(g), Yves Rousseau(cb), Alain Bouchaux(dm)
ジョセフ・コロンボが、演奏者である<ナニー>の愛称を持つジャン・コルティ(1929生まれ;本名をジョヴァニ・コルティノーヴェイスというギリシャ系奏者であり、ジャック・ブレルやバルバラの伴奏を務めてきた)に送った曲である。
- 13. イタリア女
- 演奏者: Jean Corti (acc) pure accordion solo
ここでは、ジャン・コルティの純然たるアコーディオンソロが、コーヒーブレイク的に堪能できる。
- 14. <緑の格子>のワルツ
- 演奏者:Daniel Denecheau(acc.diato)+Michel Esbelin (cabrette)+Robert Santiago (jase), Didier Roussin (banjo)
<緑の格子>とは、パリのオーヴェルニュ村と言われたラップ通りの最も古いダンスホールの名前である。キャブレット(バグパイプ)奏者のミシェル・エスベランが、当時を偲んで古風なメージャー調のワルツに仕上げた。
- 15. ジェルメーヌ
- 演奏者:Denis Tuveri(acc), Didi Duprat(g), J.P.Viret(cb), Pierre Guignon(dr)
ドゥニ・チュヴェリ(1924年生まれ)も伝統的なミュゼット・アコーディオニストであるが、本来はトランペット奏者であり、バンドネオンもこなす。この曲は、作曲者のジョセフ・コロンボが愛妻ジェルメーヌに捧げたマイナー・ワルツである。
- 16. 秋風
- 演奏者:Alain Musichini(acc), Didier Roussin(g), Yves Rousseau(cb), Jacques Mahieux(dr)
アラン・ムシシーニ(1962年生まれ)は、このコレクションの中では若手に属する奏者である。パリで活躍したイタリア系のアコーディオン奏者エミール・カラーラ作曲による、秋の情景を歌ったマイナー・ワルツである。
- 17. 甘い思い
- 演奏者:Marcel Azzola(acc), Y.Torchinsky(cb), Didi Duprat(g), Jacques Mahieux(dr)
アコーディオンの大御所マルセル・アゾラ(1927年生まれ;ジュリエット・グレコやエディット・ピアフ、イヴ・モンタンなどの伴奏もしてきた)はディディの幼馴染。彼らは、数ヶ月の差はあるが、同じ病院で産声を上げた。ディディは、もともとマンドリンを演奏していたが、ジャンゴ・ラインハルトの演奏に接し、ギターに転向してしまう。ディディがよき昔の思い出を基に作ったこの曲は、ジャズコードをふんだんに使ったとてもスィングしているメジャー・ワルツに仕上がっている。
- 18. 真実のミュゼット・ワルツ
- 演奏者:Daniel Denecheau (acc.diato) +Didier Roussin (banjo)
ミュゼット音楽の開拓者の一人、エミール・ヴァシェ作曲の古風な香りのするメジャー・ワルツ。
- 19. パッション
- 演奏者:Daniel Colin(acc), Didi Duprat(g), Yves Torchinsky (cb), Jacques Mahieux(dm)
「鋼鉄の指の男」の愛称で知られているアコーディオンのダニエル・コラン(1941年生まれ)は、その力強い速弾きから別名「ターボ」とも呼ばれている。
- 20. モントーバンの炎
- 演奏者:Andre Minvielle(vo+words)+Francis Varis(acc),Didi Duprat(g), Yves Torchinsky (cb), Jacques Mahieux(dm)
フランシス・ヴァリス(1957年生まれ;母方はポーランド系)はフランスでは珍しいピアノ式アコーディオン奏者であり、ジャズを得意とする。この曲はソムの戦い(第一次世界大戦1916年)で、イギリス軍とフランス軍が、ドイツ軍の占領するモントーバン村を爆撃したことに因んで作曲したマイナー・ワルツである。ここではアンドレ・マンヴィーユが歌詞を付け、情熱的に歌い上げる。